意外に知られていないのですが、1960年代にハーズバーグがモチベーションの源泉は仕事そのもの、その達成感、さらに言えばそれを周囲が承認することにあると実証しています。
自分を振り返れば、なるほどそうだよなと肯定する人は多いでしょう。
しかし、この点に留意して仕事をさせている管理者は少ないというのが私の実感です。
なぜなら、管理者研修などでハーズバーグの理論を説明すると、怪訝な表情、あるいは戸惑った表情をする方が少なくないからです。
90年代以降、成果主義が導入されたためか、成果を上げるための方法にばかり目を向けて、人がなぜ動くのか、どうしたら気持ちよく働いてもらえるのか、人の心や感情に目を向けることを忘れてしまっている方が以前に比べると多くなってしまったように感じます。
企業における管理者教育でも、成果をあげる方法論や技術論が中心で、人を扱う文学、哲学、心理学などの視点でマネジメントを考えることはめったにないでしょう。
マネジメントとは、管理・統制するだけでなく、人に気持ちよく働いてもらい、最大の成果を生むための支援・促進行為であるはずで、その点を考えるためには人文学の視点は不可欠のはずなのにです。
マネジメントにおいて人文学の視点が乏しいのは、ひとつには人の問題は複雑で難しいため扱うのが困難だからです。
科学的なアプローチでは完全に解明することは難しく、唯一絶対の解がないために、特に論理思考が強い人にはある種の気持ち悪さがあるのかもしれません。
しかし、難しいからこそ避けずに中心課題として扱い続けなければなりません。
“見えざる手”で有名なアダム・スミスは、『国富論』を著す前に、『道徳感情論』を著しています。
アダム・スミスというと、市場経済における自己利益追求の推進者というイメージですが、実際には道徳哲学者であり、『道徳感情論』の冒頭でこんな言葉を残しています。
“いかに利己的であるように見えようと、人間本性のなかには、他人の運命に関心をもち、他人の幸福をかけがえのないものにするいくつかの推進力が含まれている。”
人間は自分が一番大切であり、利己心がまず先にあり、それにより経済が活性化することをアダム・スミスは積極的に認めていますが、一方では、人間には利他心もあり、それは“共感”から始まり、他者が喜ぶことを基準に行動すべきであると主張しています。
マネジメントにおいては、部下の満足に“共感”することがすべての出発点と言えるのではないでしょうか。