上司だけの評価では客観性に乏しい。
そんな考えから、評価をより客観的に公正に行うために、直属上司ではない上位者、関係者、部下などからも評価する所謂『360度評価』を導入する会社も少なくありません。
考え方としては一見道理が通っているように思えますが、事はそう単純ではありません。
私も人事部のマネジャー時代に、『これからは360度評価だ!』とトップの理解を得ながら先頭にたって推進していました。
しかし、実際に行ってみると見えてくることがあります。
一言で言うと、「360度評価は客観性のあるもの」ではありません。
運用に慎重を期さないと、単なる「好き嫌い評価」に堕落し、不要な混乱、へたをするとモチベーションの低下を招くことがあり、本末転倒の結果を生じかねないのです。
人事評価における客観性とはいったい何でしょうか。
客観性を単に異なる視点で見るという解釈をすれば、360度評価は評価者が増えるので客観性は増すと言えますが、人事評価における客観性とはそんな単純なものではありません。
人事評価は論理的には、事実を一定の基準に基づいて評価するということですが、そもそも事実をどう解釈するかで結果が異なってきます。
歴史の解釈が様々で時には論争にまで発展するのは、そもそも事実の観方が違う、収集した事実が異なるなど、唯一の事実というものが存在しない点にあります。
歴史を持ち出さないまでも、我々は経験的に事実の観方は人によって異なることを知っています。そういった常識からは、人事評価における客観性を担保することの困難さは容易に想像できます。
だからこそ、人事評価では評価者研修を行い、最終評価を決定する際には慎重な検討を行っているのです。
また、よくあるケースですが、360度評価では部下が上司を評価することがあります。
正確に分析したわけではありませんが、上司にへつらい無難な評価をする者が半数、逆に日頃の不満をぶちまけるように、とんでもなく悪い評価をする者が数パーセント、とんでもなく悪いとは言えないまでも感情のままに評価とは言えないような悪い評価をする者が2割程度、良い部分と改善して欲しい部分をメリハリある形で評価する者が1割程度、また、部下から良い評価をもらうために、部下に媚を売る上司も現れてきたりします。
客観性の難問に加えて、このような状況では、『360度評価』を本来の目的である、昇給・昇格、人材育成に活かすことは困難でしょう。
『360度評価』は結果の活用方法を慎重に考えた上で行わないと、無用な混乱を招き、メリットよりもデメリットのほうが多くなってしまうのです。